地域で活躍する会社から学ぶ -好成績・好業績の秘訣- 第8回

磯部建設株式会社(栃木県)代表取締役社長 磯部尚士氏
代表取締役社長 磯部尚士氏

磯部建設株式会社(栃木県)

実体験による意識改革
新しい時代に向けた経営

好成績・好業績の秘訣シリーズ第8回は、前回に引き続き、磯部建設株式会社の磯部尚士社長に、会社の経営に対する思いや方針について伺った。

やがて来る時代に向けた経営

─── 過去の常識が4、5年前からずれだしたというお話しですけども、
変われずにきている会社さんと変った会社さんの両方がありますか?

磯部社長

ありますね。栃木県でも未だに古典的な経営をされている会社さんがいらっしゃいます。 私はそういった古い経営体質に戻りたいとは思いませんし、むしろ向こう岸しか見ていませんけど。 戻るよりは向こう岸の方が近いと思っていますから。
   私は、今でも古い体質のまま経営できている会社さんは、かえって気の毒だと思っています。 未だにそんな会社があるんだって感じです。やがて(新しい時代が)来るのです。 そのやがてが、来年なのか再来年なのか、それとも10年先のことなのかは分かりませんが、少なくとも今のままが永遠ではないんです。 そして、向こう岸に渡る決意をしてその努力を始めたばかりの会社と、既に5年も10年も前からやっていて、 あと1~2年で向こう岸に着こうとしている会社のポジションとでは、おそらく違うだろうと思います。

でも、もし今恵まれた環境下に置かれていたら、私が言っていることは理解しないだろうし、 理解してくれても「貪るだけ貪る」ということを仰った経営者もいました。
   「ずるいかもしれないが、そういう庇護が受けられる間は受け続けたい。 それがいよいよ駄目になったら、そのときには今迄のことをかなぐり捨ててゼロスタートでがんばろう」と。 私は調子のいい会社だなと思いました。 それじゃ多分間に合わないだろうし、これはそうとう意識革命を要することなんだということを感じました。

昭和20年8月15日の終戦で国土が焼け野原になって初めて、何とかしなきゃと思うのと同じ感覚なんだと思いますよ。 人間なんて緩い方に流れやすいのだと思いますし、私個人も怠け者だと思いますもの。 外部環境が激変して、「このまま行ったら死ぬ」となって初めて経営者は皆気づかされたんですよ。 このままじゃ絶対だめだと感じたから、重い腰をあげざるをえなくなったのだと思うんです。
   だから、いい環境下でおやりになっている会社さんは、そういう意味でのエネルギーが不足しがちだと思うんですよね。 書物で読んだり人が言っていることを聞いて、なるほどねって頭では理解されておっても、 いざ自分の会社に置き換えた時に、当事者として我が社はどうするべきかってなった時に、 おそらくそこまで思考回路は働かないんじゃないかと思う。

建設会社のリスク

磯部尚士氏

磯部社長

我々は税金で飯を食わせて頂いている会社ですから、不正なことで工事を受注するとか、 不正な工事の進め方で不正な利益を受けるとかいった行為は、反社会的集団のやっている行為と変わらないと思います。 建設会社の看板を借りてやってるだけのことで、何ら変わらないです。
   例えば、産業廃棄物の処理で、本来やるべき処理を省いて発注者の予算の積算の中に入っている処理コストを利益に付け替えてしまうような行為。 これは絶対ダメ。それから、脱法行為の中の最たるものとして脱税、そして死亡事故。 これはやっぱりね、もうほんとに最悪ですわ。

建設会社の7つのリスク
建設会社の7つのリスク

それにしても、やっぱり建設業はリスクがあまりにも大きすぎますよね。 本当にちょっと重すぎますよ。
   これはね天下のスーパーゼネコンに対してという事じゃなくて、父ちゃん母ちゃんクラスのちっちゃな建設会社ですら、 ほぼ同じ扱いを受けてるわけですから。
   (ボードに書いた)この7つっていうのは、建設会社のリスクとしては昔から最たるものだって言われ続けてました。

全体を眺めていたものを実体験を通じて理解

磯部社長

(受注に関しては)自分の努力で実を結んだんだっていう感覚で経営すれば、人様に頭を下げる必要がないんですよ。 失注したときに、どこがいけなかったのかって反省しながら、 分からない項目とかできない項目を毎日一つ一つ潰していくという事に全神経費やしていけば、 やがては変化して、それなりのところまでは行くと思うんですよね。
   だからやっぱりきちんと公平にやってもらいたいという思いは強くしてるんですけども。 おかしな世界ですよ。いやまあでも振り出しに戻りますけど、いずれそんなものは無くなるはずですから。

最近の例を挙げると、戸建住宅での業績を通じて会社の財務基盤を築き上げた民間100%でやっている業歴20か25年ぐらいの会社があって、 一般のお客様を相手に、年間200棟も300棟も受注している。 そこはそれなりの売上・顧客の基盤を築いていて、戸建住宅の技術と営業については確立されており、お客様の信用・信頼も厚い。
   ある時そういう会社が、一般土木・舗装工事とかについては全くわからないけど、 ここで一丁公共事業に新規参入しますよと、自社の積算をそろばん弾いて金額を決め、よかれと思って入れる。 感覚は、戸建住宅で毎年毎年築き上げてきた蓄積と、毎年上がってる利益という確固たるものがありますから、 少々この分何%か飛ばしても、新しい官庁っていうマーケットで新たな基盤を築きましょうと。

となればその会社の社長さんの考え方は、お金を出してでも仕事を取る算段ですよ。 だから少々安くてもいい、失格さえしなきゃいい。失格しない最低で実際にやったら赤字でも構わない。 実績をきちんと残したい、築きたいと。
   だから新米の1年生として入ってきて周りが何言っても、関係ないよ、全然へっちゃら。で、おかまいなしに工事を取っていく。 片っ端から取れますよ、強いですよ。それで今じゃね、箱物の鉄筋コンクリートRC等、マンションからビルまでやってるわけですよ。 外から見ていて、そういうやり方っていうのもあるのだなとつくづく思いました。面白いなと思いましたね。

逆に、官庁だけで来た会社さんの様に守る側っていうのはホントに弱い。
   何で弱いのか。だって守ると言ったって自分たちのノウハウを守るんじゃないんだもん。 情けないかな、自分たちが都合よく受注するための仕組みを守りたいだけですよ、彼らは。 だからそこで6社とか8社とか10社の絆が、どこかでプツンと切れたらもうおしまいな訳です。
   そういう意味で弱いね。まあ所詮守る側っていうのは普通弱いんだね、やっぱり。 城の堀の外にいる側から攻めるっていうのはね、少々時間がかかろうが、手間暇かけて大砲の一丁二丁増やすとかしたら、まあ最後は大概勝ちますわ。

私は数年前まで事務や財務畑を長いことしてたでしょう。 そういう意味では恰好いいかもしれませんが、リングのちょっと外側から眺められたんで、ある意味全体を眺めることは出来ていましたね。
   分野毎とはいってもかなり広角には眺めることが出来てきましたし、1年半前に引き継いで実体験もしましたし。

今迄は学問だったものが、この実体験を通して「なる程そうゆうものか」とやっとわかった気がします。

─── 今回は長時間に亘り貴重なお話しをありがとうございました。

(取材・まとめ ワイズ)

磯部建設株式会社

磯部建設株式会社

(いそべけんせつ)

栃木県日光市に本社を置く総合建設会社。昭和25年創立の栃木県内大手企業のひとつ。

栃木県日光市今市1525番地
代表取締役社長 磯部尚士