地域で活躍する会社から学ぶ -好成績・好業績の秘訣- 第7回

磯部建設株式会社(栃木県)代表取締役社長 磯部尚士氏
代表取締役社長 磯部尚士氏

磯部建設株式会社(栃木県)

発注者の望みをかなえる会社になることが
受賞・受注の秘訣
困難を乗り越えた取り組みについて

好成績・好業績の秘訣シリーズ第7回は、前回に引き続き、磯部建設株式会社の磯部尚士社長に、会社の最悪期をどの様に乗り越えたかについて伺った。

表彰会場で気がついた工事表彰の重要性

─── 社員皆さんのお力で最悪期を挽回され、今の好成績・好業績に結びついていると思いますが、
何が会社を変えたのか教えていただけますか?

磯部社長

やっぱり、会社が元気良くなる、社長以下みんなが元気良くなるのはやっぱり黒字だね。 黒字を続けるっていうことは如何に良いエネルギーかっていうのはすこぶる感じました。これ以外のエネルギーはないね。 そのために必要なのはとにかく表彰を頂くこと。国交省とか栃木県知事の県知事表彰、優良工事表彰など。 表彰状を頂くことで常に評定点が高めにいて、その高い評定点を頂けている間は総合評価では価格以外のところで優位性をもって、 それなりの価格で応札・落札ができる確率が競合他社よりも増すわけです。 国でも県でも、今の受発注システムがこれ以上大がかりな変更がない限り、絶えず優位な位置にいるには施工計画書で満点を頂くこと、 評点で表彰を絶えず途切れなく頂くことしかないですね。 私がそれに気付いたのは遅くて、今から3年半前とかで最近なんですよ。

早く気付かれた会社さんはもう5年も6年も前なんです。 そういう会社さんは、経営者・社長さんがいろんなところで絶えず情報を入手していて、いろんなことがなんとなく伝わってくる。 そりゃまるっきり目利きの感度が弱ければだめですよ。 なんとなくこのような方向に行きそうだということを嗅ぎ取る感度の良い経営者は、東京に誰か行かせて情報を入手させるといったことをやっていたに違いない。 それを先駆けてそういうことを積み重ねてきた会社さんと、まったく知らずに勝手にやってきたうちとでは、うちが悪いですよ。 それまで工事実績という部分をなぞらえて、「腕に覚えのあるうちが負けるわけない。何でうちが負けるんだろう。 (会社の)規模からしても、会社を立ち上げてからの年数にしても、うちが負けるわけない。」っていう会社に負け続けたわけですよ。

─── それが4年くらい前ですか?

磯部社長

磯部尚士氏

その位ですかね。何べんやっても勝てない。なんで負けるんだろう、なんで負けなんだろう。 何故なんだ、何故なんだってなるわけでしょ?自分に鞭打たれてね・・・。 ある種サーカスのライオンじゃないけど、調教師に鞭打たれて痛みを伴って覚えていくのと同じことですよ。 大概は懲りますし、脳にどんどん刺激がいきますよね。 その時にね、そこ(で気付いたこと)は「無知なるが故」ですよ。 もう四方八方いろいろ手を尽くして調べてたら、そこが足らないここが足らない、 肝心要のここに手を染めてなかった、何の備えもしてなかったとか後から少しずつ分かってきた。 それで、「さあ頑張ろう。じゃあ、こことここだ」って、会社としての目標が明らかになった。

そうなると後は時間の勝負ですよね。 彼らだって止まってないんですから同じスピードで走ってたら追いつかないですよ。 彼らよりも吸収すべき項目の数は多いですから。 100のうち、絶えず90~95を備え付けてある会社と、50~60しかない会社。 50~60しかない会社は、毎日毎日課題を潰す作業を怠らずやっていれば、 時間・月数・年数のかけ方である程度は出来るっていうのは分かりました。

当時、地元(栃木県)でいいますと、(工事が)当たるかなっていうのが、だいたい優良会社クラスばっかり。 そういう会社と比べたら、うちはもう半周以上遅れてる。勝てない。絶対勝てない。 何をやっても価格でいったって絶対勝てない。 向こうがチョンボして、応札する金額の読み違い、単価の読み違いやら違算があって、 うちが見えない価格のオンラインがぴったしハマれば取れると。 これではどこまで行っても完全に他力本願で、自社の能力だけでは絶対取れないです。 競合他社、上にいる会社がスピンアウトして、初めてうちがギリギリ採算性の一番悪いラインで取れると。 で、取らない限りは工事実績が積み上がらない。いみじくもね、出先の所長が言ってましたよ。

「建設省時代だったら、レギュラーメンバーの固定化っていうことはなかった。 (入札に)参加される会社さんっていうのは案件ごとに変わりますし、当然ながら落札される会社さんも変わる。 今の総合評価方式で(工事を)取れない会社からの発想で言えば、国交省はレギュラーメンバー化を仕組んでいるんだ」と。 県もそうですよ。

ズバリ言いますと、国交省の監督官や課長連中、県の副所長に至るまで、とにかく目を離していたら何をするか分からない。 (彼らは)ろくに技術のない会社に(工事を)取って欲しくない。 お役人というのは、保身というか自分の身分出世のことを考えるあまり、そういう会社を担当することになると具合が悪いわけですよね。 上から人事評価されるときに、お前どういう監督してたんだってなるわけですから。 当然、とんでもない点数もつけられない代わりに絶えず目が離せないっていうんじゃ、 もっと前向きな課題や仕事に時間をかけて当たろうとしても、とてもじゃないが当たれない。 どちらかというと後ろ向きの仕事になってしまう。

落札した会社は、発注者がこの工事はこういう風に進めて欲しいっていうことがインプットされていて、 きちんとその通り動いてくれる会社さんなので安心して任せられ、自分は高見の所に身を寄せられる。 これが理想なんだという考え方です。 これは考え方としては正しいけど、その代り必ずメンバーの硬直化につながる。 言うならば、新規参入の障壁に当たるというぐらいのことは現にあります。

─── 新規参入の障壁ということを問われると耳が痛い、そこをつかれると痛いという話は出ています。

磯部社長

今年度、平成24年度は残念というか情けないことに栃木県の知事表彰は頂けなかったんですけど、 23年度に県立工業高校の校舎の新築工事実績が最終的に県知事表彰を頂けたということで、 知事の公館まで出向いて賞状を頂く機会に恵まれましてね。 その当時の県の整備部長さんの言葉は今でも忘れられませんよ。 「今日みなさんには栄養ドリンクを与えましたよ。」

つまり県の方からリポビタンを与えた感覚のつもりなんですよ。 「これから1年間、総合評価で優位な地位で応札できるチャンス・保証が与えられたんだから、 頑張って次年度も表彰を頂いて、自分達の商売・企業経営に活かしてください。」 といったようなことを県の整備部長が仰るわけですよ。 それ以前に国交省へ(表彰を頂くため)出向いて行ったときに局長さんが、 「今日お越しの表彰状を授与されるゼネコンの経営者の方々は高見の所におられる。 我々は高見の所に上げたつもりだから、それを大事に優位に次年度からの受注活動に使ってください。 使えるはずなんです。(我々は)そういう思いなんですよ。」と言うわけですよ。

まさしく、国の考え方も県の考え方もベクトルは完全にピッタンコ。 たぶん、ああいう所に来ている社長さん・経営者さんの感覚もみんな完全に同じ方向だと思うんですよ。 みんな(以前から)それに気付いてた人達ですよ。 5年前に気付いたか、それよりも前なのか(分かりませんが)、 ほんの1年前に気付いてアクション起こして表彰取れたとは思えないんでね。 おそらくこれ、3、4年は助走期間が要るはずなんですよ。

そういう意味で、私も前社長も昔から言ってたのは、 会社が大きいとか小さいとか、社歴が長いとか短いとか、そういったものがいいからといって、 世の中がその会社を潰すようなことはしないはずだといったことは一切ないということですね。 ややもすると逆方向ですね。 やっぱりあの会社は大きいから、舵の切り回しに時間やエネルギーがかかって、とうとう切り損ねちゃったねと言われる。 規模が大きいばっかりに、小さな会社なら短期間で簡単に成果が出るものが、 どうしても長めに時間がかかってしまうというのが大きな会社だと思います。

そういう意味では、中途半端に大きい会社が辛いと私は思う。 本当の大企業なら、それこそ銀行が潰せないみたいな話がありましたし、 ほんとに小っちゃければ方針の変更がしやすいと思うんですよ。 なまじっか中途半端な規模っていうのはどっちつかずでたちが悪いな。 柱時計の振り子じゃありませんけど、振れが大きくなればなるほど復元できるまでに相当な時間を要しますし、 かえって大きい方が罪深いなという思いでいます。

そういった意味でも、親父の代の営業の進め方とはまるっきり変わっちゃったかなというか、 自分がバックヤードで見ていた時と違い、1年ちょっと前に社長をやらざるを得なくなってみて実体験してよく分かりましたね。

技術者の3名配置が必要な時期も

磯部尚士氏

磯部社長

ここ4、5年の流れでは、今のカリキュラムの関係で、いろんなポイントが付く研修会・勉強会には、 とにかく現場離れてでも場合によってはそっちに人をやらなくちゃいけない。 土木なんて土曜日のみならず場合によっては日曜日もやっているにも関わらず、 年間通じてそれなりの点数を保持していないと、ノミネートエントリーしようにも適任者がいなくなっちゃう。 面白いことに大手さんと違うのは、「地場建設業界の雄」と言われるような会社連中でも、 絶えず表彰状を授与されるような花形プレーヤーはそうはいないですよ。 せいぜいうちだって2人か3人。うちは土木一級施工管理技士で30人ちょっと抱えてますけど、 本当に国交省に出て行って競合他社とバッティングしても引けをとらない、 あれなら恥ずかしくない、決して負けないって胸を張って言えるような技術者っていうのは、正直3人。 だからどうしても縦割りになっちゃう。 昔からうちの会社もね、その弊害も分かって直す方向には来ているんですよ。

昔は、はい建設省、はい県土木、市役所、なんとかなんとか・・・って、 ジャンルというか発注機関別に技術者を縦割りにジャンルや工種をある程度専門化させて、 それなりの技術を持った人の育成が図れた。 オールラウンドプレイヤーというと、「広く薄く」みたいなことで、全てに通じる代わりに深堀りがされてなくて、 それはあまり意味がないみたいな感じがあった。 古い因習がある世界では、ある程度縦割りでやってきて、 そんなに会社経営上さほど足を引っ張るというかマイナスという意識・経験がなかったんですね。

それが今度は「総合評価」。 会社単位で工事実績というものについて評価を問う、技術者についても評価を問うんだとなり始めてから、 第一線で優秀なプレイヤーをある程度最前線に並べておかないといけない。 一級土木施工管理技士を持っていれば誰でもいいんだという世界じゃない。 多くの会社はそうすると決まってから育成するから、その優秀なプレイヤーが塞がっている時、 せっかく参戦できるものがあってもエントリーできる人がいないってことで受注機会を逸する。 これはもったいない話であると。自ら受注機会を狭めるってことはやるべきじゃないんじゃないかな。 これもまたそれなりの時間を要することですけど、最先端をいってた会社さんは採算をある程度度外視して3人出してた。

─── 3人もですか。

磯部社長

業績
磯部建設(株)の業績

例えば、1億の工事で採算性だけ取れば、また普通の平均的な点数をもらうのであれば、 1人か2人でいいところを敢えてもう1人付けて3人でやる会社っていうのはもうあったんですよ。 でもそれは、よほど財務内容にも恵まれていて、それだけの備えがあるっていうことが前提条件。

それがないと、例え社長さんがそういう思いがあっても、 「3人もやったんじゃ利益は落ちるんだから、やっぱし採算性を考えたら悪いけど2人でやってくれ。」とかね。 場合によっちゃ1人だ。しかしそうすると点数が絶えず悪いわけですよ。 平成18、19年くらいから3人でやった方が絶対有利だっていうのはうちも分かってましたよ。 でも頭では理解していても、うちはそういうことが許される状態ではなかった。当時は採算性が一番。 赤字が3期も4期も続くもんですから銀行にも睨まれますし、前社長だって赤字をなんとかせいって銀行から迫られればね、 表彰状を頂くよりも何よりもまずは黒字にすることしか頭回らないですよ。 それでずっとやってきたんです。で、平成20年の7月くらいからコンサル入っていただいて、 全国の地場ゼネコンのいろんな情報提供も受けましたし、仕事の進め方もどこがいいとか悪いとかっていうレビューも受けて、 ある程度の処方箋というものが出てきて、それでじゃあやってみましょうと。 いろんな議論を重ねながら、プロジェクトチームみたいなものを作って月2回の土曜日をつぶして会議をやってました。 施工計画も含めてですね。

そうそうワイズさんにも工事成績を上げるためのセミナーを社内でやっていただきましたよね。

後は、全社的マクロ的な業績の回復や経営のあり方・組織のあり方についても議論が白熱してきたこともありましたし、 そういうことを経ながらある種ちょっと難しいんですけど、両にらみですよね。 業績を全く無にしていいってことはどんな会社でもあり得ないし、借金だってあり得ないって思うんですよ。 業績もそこそこ確保しながら、且つ、次年度に繋がるよう今預かっている工事がきちんと竣工検査の折に それなりの評定点を頂けるということに努めましょうと。これはやっぱり対処療法ではダメですと。

すぐには結果が出なくても、結果が出る前の手当っていう部分、 見えない部分がマイナスだと思えば、その穴を塞ぐという作業はやっぱりやらないといけません。 それにはそれなりの時間がかかりますよ、我慢できますかっていう部分ですよ。 それも半目つぶりながらやってましたよ。新人ながら。 それでやっぱり1人じゃいけないっていって、2人とか場合によっては契約工期ベタ(通し)ではないが3人とかって、 多少採算が悪いようなことも承知しながら、まあまあ工事実績も積み上がりながら3、4年やってたら、 かなり先にいた会社さんの背中がはっきりと映ってね。

まだトップランナーとは伍してはいませんけど、他とは勝ったり負けたりとほぼ横一線に並ぶようになってね。 ただ、後ろは後ろで早く着いて来ますし、ある種団子状態ですよ。 それはもう国でも県でも同じことが言えるんで、うちは遅きに失してたけど気付いた時点でやり始めて、 やめずに信じてやり続けたってことで多少なりともきちんと結果も出たんだし、 結果が出た限りは一見遠回りに見えてこれが一番の近道だと思って信じてやるしかないなあと。

私が社長になって1年と4か月ですけど、この間話してきたことを重ね合わせたらほぼ重なってますね。 私にブレはないと思う。(次号に続く)

取材後記

前回に引き続き磯部建設(株)磯部社長にインタビューさせて頂きました。

配置技術者を2名でなく経験を積ませるために敢えて3名にするなど、 思い切った取り組みが現在の受注を生んでいる等の秘訣をお話しいただきました。

次号では、経営に対する思いや方針について引き続き磯部社長にお話し頂きます。どうぞ、お楽しみに。

(取材・まとめ ワイズ)

磯部建設株式会社

磯部建設株式会社

(いそべけんせつ)

栃木県日光市に本社を置く総合建設会社。昭和25年創立の栃木県内大手企業のひとつ。

栃木県日光市今市1525番地
代表取締役社長 磯部尚士