2016/06/09 技術検定試験の見直し等を議論。中間取りまとめの素案を提示 【中建審 H28第6回 基本問題小委員会】

国土交通省は6月9日、中央建設業審議会・社会資本整備審議会産業分科会建設部会
基本問題小委員会(委員長・大森文彦東洋大法学部教授)の平成28年第6回会合を開催した。


同委員会は、横浜市のマンション基礎ぐい工事問題の背景にあると考えられる
建設業の構造的な課題を検討するため、開催されている。
今回の会合では、技術者制度、中長期的な担い手の確保・育成について議論され、
中間取りまとめ(素案)が提示された。
技術者制度に関する議論では、建設業を取り巻く情勢・変化に対応した監理技術者・主任技術者の
役割の明確化や、技術検定試験の見直し等が検討された。
監理技術者等の職務の2種類への大別や、担い手確保に向けた技術検定試験の見直し等の案が
提示され、具体的な活用・運用方法については引き続き検討される予定である。
監理技術者等の役割の明確化の内容については中間取りまとめ素案
Ⅱ個別課題に関する対応の方向性の「1.建設生産システムの適正化」(1)に記載され、
技術検定試験の見直しの内容については
「2.建設生産を支える技術者や担い手の確保・育成」の(1)に記載されている。

前回までの議論を踏まえ、事務局より以下Ⅰ~Ⅳの形で中間取りまとめの素案が提示された。

基本問題小委員会 中間取りまとめ(素案)

Ⅰ 検討の経緯と建設業を取り巻く情勢
  1 検討の経緯
  2 建設業を取り巻く情勢

Ⅱ 個別課題に関する対応の方向性
  1 建設生産システムの適正化
  2 建設生産を支える技術者や担い手の確保・育成
  3 建設企業の持続的な活動が図られる環境整備

Ⅲ 重層下請構造の改善

Ⅳ まとめ

中間取りまとめ(素案)についての詳細は以下の通りである。



Ⅰ検討の経緯と建設業を取り巻く情勢

1 検討の経緯
横浜市マンション事案を契機とする「基礎ぐい工事問題対策委員会中間取りまとめ」
(平成27年12月25日)において、 基礎ぐい工事問題の背景にあると考えられる
建設業の構造的課題について、建設業の将来を見据え、対策の検討を行うことが提言された。

2 建設業を取り巻く情勢
・建設生産システムの複雑化・多様化
・高齢者の大量離職時代の到来、担い手確保と生産性向上
・地域の中小建設企業等の小規模化、経営の継続・承継を巡る問題
・建設業許可制度のあり方等の検討

Ⅱ個別課題に関する対応の方向性

【1.建設生産システムの適正化】

(1)監理技術者等の適正な配置、役割の明確化
①技術者の適正な配置のあり方
⇒技術者が専任することの意義を踏まえ、請負金額以外の要素の加味等も含めて
専任用件の設定について、引き続き検討。
また、技術者の専任が不要となった期間で他の専任工事への従事を認めることについて、
引き続き検討。

②施工体制における監理技術者等の役割の明確化
⇒元請の監理技術者等と、下請の主任技術者について、それぞれが担う役割を明確化。

③大規模工事における技術者の複数配置の推奨
⇒監理技術者等は全体を総括する立場の技術者として1名配置し、管理技術者の役割を
補佐的に分担する技術者を別途配置することが望ましい旨、監理技術者制度運用マニュアルへ
記載する。
また、当該技術者の役割や活用方法について引き続き検討。

(2)実質的に施工しない企業の施工体制からの排除
⇒実質的に施工しない企業を施工体制から排除し、一括下請負の禁止についての法令遵守の指導を
徹底。
⇒一括下請負の要件である「実質的関与」について、元請・下請に区別した上で、
工種や下請企業数の累計に応じて判断基準を明記。

(3)工場製品に関する品質管理のあり方
⇒既製品である工場製品について、監理技術者に一定の技術的関与を求めることは困難。
そのため、工場製品を製造する企業に対して、一定の制度的関与を設けることについて、引き続き検討。

(4)民間工事における発注者・元請等の請負契約の適正化
⇒予め関係者間で協議しておくことが必要と考えられる施工上のリスクに関する協議項目等について
指針として取りまとめ。

(5)施工に関する情報の積極的な公開
①マンション引渡し段階におけるエンドユーザーへの情報提供
⇒マンション管理適正化法に基づき管理組合に対して交付される11種類の図書について、
その具体的内容や求められる情報密度について明確化し、周知徹底。

②建設企業による施工に関する情報の保存
⇒重要工程において作成された施工内容に関する情報について、建設企業により保存されるよう
取組を促す方策を検討。

(6)施工責任に関する紛争調整等の円滑化
⇒「建設工事の請負契約に関する紛争」以外の紛争も建設工事紛争審査会の対象とすることについて、
その範囲等を検討。
⇒瑕疵の状況や原因等の事実関係についてのみ認定を行う手続を創設することについても検討。

【2.建設生産を支える技術者や担い手の確保・育成】

(1)技術と管理能力に優れた技術者の確保・育成と活躍
⇒更なる受験機会の拡大として、2級学科試験の受験機会の年2回化、学科試験合格者に対する
士補の付与について検討。
⇒1級の学科試験の受験早期化について検討。

(2)大量離職時代に向けた中長期的な技能労働者の確保・育成
①中長期的な技能労働者・供給力の確保に向けた総合的施策の展開
⇒「人への投資」を積極化し、中核となる人材を安定的に確保するとともに、
「経営のイノベーション」による生産性の向上に取り組むことで、「人材投資成長産業」を目指す。
そして、広く社会から働きやすい職場、成長する産業と認知されることで、「選ばれる産業」へと
発展させる。
⇒課題の解決に向け、「6つの重点施策(処遇の改善、キャリアパスの見える化、
社会保険未加入対策、教育訓練の充実、戦略的広報・先鋭的プロモーション、生産性向上)」と
「担い手5分類(若者、中途採用、離職防止、定着促進、女性活躍、高齢者)
のターゲットに応じたきめ細かな施策」を総合的に展開する。

②施策によりカバーしていく技能労働者数の目安
⇒具体的な目安については検討中。

【3.建設企業の持続的な活動が図られる環境整備】

(1)地域の中小建設企業の合併や事業譲渡等が円滑になされる環境整備
⇒合併時において、許可や経審の申請に係る事前確認手続の整備等の手続の迅速化や
書類の簡素化を検討。
⇒廃業を行った企業から技術者等を受け入れた企業について、
経審上のインセンティブの付与を検討。
⇒地方公共団体における、合併企業に対する入札契約制度上の特例措置について、
今後のあり方を検討。

(2)経営業務管理責任者の用件のあり方の検討
⇒建設業の経営の安定性に係る許可要件を定めること自体は積極的に否定されるものではないと
考えられる。
⇒本委員会の審議において、ペーパーカンパニーや不良不適格業者を排除するために、
現行の経営業務管理責任者要件は不可欠との指摘があった。
また、専業の大手建設企業や地方建設会社においては、当該要件が過度な負担ではないと
いった意見が存在。
⇒他方、現行の要件によって、経営の安定性を確保することの妥当性について
指摘があることも踏まえ、経営業務管理責任者要件のあり方について引き続き検討。

(3)軽微な工事に関する対応の検討
⇒軽微な工事のみを請け負う者に対し、その実態を把握。
その上で必要に応じ、一定の関与を行うことについて検討する。

Ⅲ 重層下請構造の改善

建設業においては、中間的な施工管理や労務の提供その他の直接施工機能を担う1次下請、
2次下請、さらにそれ以下の次数の下請企業から形成される重層下請構造が存在する。
⇒重層下請構造の改善は広範にわたる課題であり、建設生産システム全体の議論と合わせて
幅広い観点からの検討が必要である。
まずは当面の措置として、施工を行わない下請け企業の排除、専門工事業者が中核的な技能労働者を
雇用しやすい環境整備についての対策を講じつつ、引き続き検討。

Ⅳ まとめ

・基礎ぐい工事問題を受けて、基礎ぐい工事問題に関する対策委員会により提言された
建設業の構造的課題については、おおむね方向性を示したところ。
・具体的対応策を示した事項については速やかに実施するとともに、更なる検討を要する
事項については直ちに検討を開始し、実施可能なものから順次実施に移すことが必要。
・将来の建設市場や産業構造への対応、建設生産システムの複雑化、多様化、海外建設市場や
新たな事業領域への進出等の諸課題への対応が更に重要。

今回の中間取りまとめの素案について、委員からは以下の意見が出た。

大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「項目のⅢについて、数字の4にしてⅡの中に含めた方が良いのではないか。
今の状態だと重層下請構造の問題が特に大きな比重に見える。」

田口委員(全国建設労働組合総連合書記次長)
「重層下請構造について、一人親方が増え、それに伴い一人法人の状態が増加しているが、
国交省ではどう認識しているか。実態の把握が必要である。」

谷澤委員(三菱地所株式会社取締役常務執行役員)
「基礎ぐい問題から建設業全体の大きな課題に取り組むことになったが、発注者が責任を果たし、
ユーザーの信頼を回復することが大切である。
また、様々な事を強いることになると、本来の仕事が出来なくなってしまう。
過度な負担にならないよう検討していただきたい。」

次回の審議会では、中間取りまとめが提示される予定である。


     

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