2016/04/27 建設技能労働者の担い手確保・育成施策の素案を提示 中央建設業審議会

2016/04/27 建設技能労働者の担い手確保・育成施策の素案を提示 中央建設業審議会

4月26日、建設業に関する個別課題とその対応の方向性についての議論のため、
第4回基本問題小委員会が開催され、現在素案として作成されている施策の取りまとめが報告された。


今回は、以下の4点について議論が行われた。
(1)中長期的な担い手の確保・育成(課題と検討の方向性)
(2)元請・下請の施工体制における役割・責任の明確化等
(3)消費者視点に立った建設業紛争審査会制度のあり方
(4)経営業務管理責任者要件について  

(1)中長期的な担い手の確保・育成(課題と見当の方向性)について


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※第4回基本問題小委員会配布資料より引用

今回、担い手確保育成政策の素案として基本的な考え方が提示された。   

  
建設産業の目指す理想の形~「人と企業の成長サイクル」
人への投資・人の成長を正のスパイラルといった形で理想形に持っていく。
求職者 ⇒ PR・採用活動 ⇒ 入職 ⇒ 教育訓練・キャリアパス ⇒ 技能の向上・経験の蓄積
⇒ キャリアの適正な評価 ⇒ 給料アップ・モチベーション向上 ⇒ 中核人材の安定的な確保(正社員化)
また、経営のイノベーションも人への投資と合わせて行う。
・・・ICTの導入・働きやすさ(日給・月給、女性の勤務形態等)の改革等
 
成長サイクルの好循環を阻む要因・課題
①  PR・採用活動:建設業は縁故中心の採用・イメージアップ・採用活動への投資が不十分。
②  教育訓練・キャリアパス:時代に答えた教育訓練の質量の不足、中長期的なキャリアパスの
見通しが立たない。
③  キャリアの適正な評価:人事評価体系、優秀な社員に対する処遇反映が不十分。
④  中核人材の安定的な確保(正社員化):繁閑・仕事の波が大きい。外注への過度な依存。
これに対して施策の強化をしていく。
 
人材投資成長産業の実現に向けた施策の強化(素案)
「人への投資を促進し好循環を生みだす6つの重点施策」
①  処遇の改善:賃金アップ・月給制の導入・休日確保など、不断の働きかけ。
②  キャリアパスの見える化:「建設キャリアアップシステム」の構築。
シームレスなキャリアパスモデルの構築。
③  社会保険未加入対策:計画の最終年度である平成29年度以降の取り組みについて検討。
④  教育訓練の充実:富士教育センターを中心とした教育体制の強化、地域・業界団体で支える
職人育成塾の強化。
⑤  戦略的広報 先鋭的プロモーション:学校キャラバンの実施・建設業全体のイメージアップ戦略へ
つながる施策を展開(地域活性化・新商品開発等)。
⑥  生産性向上:生産性向上のための複合工・繁閑調整・イノベーションの促進に向けた取り組みの支援・
ICT技術の活用。

今後、人材投資・成長産業の実現に向けた担い手確保ということで取り組みを進め、最終的には
目標設定を次回以降提示する予定。

これに対して、委員からは次のような意見が出た。

○桑野委員(東京大学生産技術研究所教授)
「理想形の正のスパイラルの形を目指すのは賛同。人の成長への投資あるいは教育というのは
大変時間がかかるものなので、長い目で見ていける仕組みを考えていければ良い。女性活躍のための
様々な政策は、それはそのままそっくり若者や他の方たちにも当てはまるということで、多様性の
推進をしていくこと自体が、いろいろな立場の方の働きやすさにつながっていく。そういう多様性の
推進というイメージで組立ていただければ良いと思う。」

○岩田委員(一般社団法人全国建設業協会副会長)
「富士訓練センター、関西には三田というところがあるが、北海道とか東北とかそこまでいくと
派遣するというのは厳しい状況。かつては各業種がそれぞれ機関を持てたり、業種単位で訓練機関を
持てたりしたが、それが持てない状況のため、是非東北・北海道に一箇所ずつ、中国四国九州で
一箇所といった、そのような形のものが整備されていけばありがたい。」

○蟹澤委員(芝浦工業大学工学部教授)
「実は何が一番大きな阻害要因かというと、業界内部の意識改革、固定観念が非常に強いものがある。
若手の発言する場をつくるという政策も一つあればよい。若い世代は新しいことを考えているが、
発言する場がない。」

○古阪委員(東京大学大学院工学研究科教授)
「建設労働も知識・技能がいるが、それを持っている人が消えていっている。建設業から退場しようと
している人を引き留めて、技能を維持する・教えてもらう。技能者には富士訓練センター等は
あまり向かず、実際は地元の現場のそばで教えている。市町村の一箇所・あるいはゼネコンの
若いものが来て、知識を教わるチャンスをやるべき。聞き方・頼り方が分からないという関係の中で、
大量の工事をやっている。そのため、高齢者をターゲットに指導教員の育成体制の構築を行うのは
有効。」

○田口委員(全国建設労働組合総連合書記次長)
「若者の問題について、正社員化といっても全員が対象にならない。若者の就労条件・所得の
問題についてしっかりと明記をして取り組む。所得・休日労働についても明記して計画に入れていく。
また、古坂先生に同感。地元で体験できる・資格を取得できる仕組みを自治体の中に作っていく
必要がある。」

○才賀委員(一般社団法人建設産業専門団体連合会会長)
「誰がやる政策なのか、という疑問。最終的に賃金が上がらない・工期がない・現場では
やはり下請という問題がなくならない限りは解決できない。民間工事も公共工事もなく、きちんと
両方一緒にやっていただければ幸い。」

○丹羽委員(公認会計士・税理士)
「何より構造的な課題の解決が無ければ、「美味しいんですよ、このお店は」といくら宣伝しても
評判を聞いて他の人が来なくなるというように、人も同じことだと思うので、根本のところを、
人材確保のため、人の成長の為にも大切だという認識で進めていただければと思う」

○勝見委員(一般社団法人日本建設業連合会総合企画委員会制作部会部会長)
「日建連でも昨年長期ビジョンを出し、担い手確保について同じ方向を向いていると感じる。
富士訓練センターについて大手の場合は組合があり、実質的に協力会社の負担ゼロで、センターに
自分の社員を派遣する仕組みをつくっている例がある。そういう努力をしても足りない部分を
生産性の向上で埋める必要がある。コスト・工期に関して生産性は上がってきている。ところが、
生産性の向上を業界の外に吸い上げられている。生産性向上の成果をなるべく業界の中にとどめて
技能労働者の担い手確保の原資とするべき。全て『工期短縮できます』といって受注競争の原資にして、
自分で自分の首を絞めてきたのが現状ではないか。」

○小澤委員「東京大学大学院工学系研究科教授」
「マーケットの方は変化をしていて、具体的に建設労働者の人に、今までと違う方向に変わっていって
ほしいという部分が明確でない。どういう人を育てたいのか、成長する人のイメージ、目指すべき
方向を示していけばよい。新しいマーケットの部分はどんどん作らなければならない。地方創生の中で
地域を新しく作りなおすには、目指す目標設定にボリュームだけでなく、質も具体的に書き込んで
いただければ良い。」

○大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「処遇の改善について『不断の働きかけ』を忘れずにやることが大事と思う。桑野委員の言ったように
効果が出るには時間がかかり、監視・検証していくことがどうしても必要。継続性という観点で施策を
打っていただければと思う。」   

 

(2)元請・下請の施工体制における役割・責任の明確化等について

建設業法第26条の3に、技術者等の役割についての文言がある。しかし、監理技術者・主任技術者に
共通したものであり、元下の技術者の役割の違いは建設業法には明確にされていない。
適正施工を確保するにあたり、建設業を取り巻く情勢・変化に対応した技術者の役割を明確にするべきと
考え、表現について実態を見ながら検討する。


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※第4回基本問題小委員会配布資料より引用
監理技術者等の職務(役割)の明確化
全ての主任技術者等は大きく2つのタイプに分けることができる。
  ○タイプA…典型的な元請の管理技術者…全体の統括的施工管理
  ○タイプB…下請企業の個々の施工担当…請負部分の施工管理
実際は下請であってもタイプAの場合もあり、その点はさらに区分を引き続き検討し、
それぞれの立場の技術者の役割を明確化していく。  

これに対して、委員からは次のような意見が出た。

○大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「Aで『必要に応じて立会い確認・事後確認』、Bで『原則として立会い確認・事後確認』とある。
要は確認する行為が必要である。方法はAもBも変わらないかと思う。Aの方が事後的な確認が多く、
Bはその逆かという印象だが、適宜いろんな確認の方法があるだろうという気がするため、書き方は
工夫していただければと個人的に思う。」

○岩田委員長(一般社団法人全国建設業協会副会長)
「Aは全体を見るということからいうと、立会いは厳しいかと思う。Bは原則として立会い確認、
Aはどちらかというと事後確認の方が現状的には合っているかと思う。」


監理技術者の配置に関する規定
建設業法上は監理技術者が全ての統括責任者となる。
一般的には監理技術者の下に工事課長・担当技術者が置かれ、元請企業は複数の技術者が
チームとして勤務しているが、法律上は監理技術者を補助する技術者について法律上に
はっきり出ていない。  
⇒  監理技術者の役割を補佐的に分担する技術者の積極的な配置をマニュアルで記載するべきか検討。
⇒  一方で工事に関する情報の散逸・責任の所在の不明確化を防ぐため、監理技術者は全体を
総括する立場の技術者として1名置くべきではないか検討。

実質的に施工しない企業の排除
建設業法を適用し、いわゆる「丸投げ」といったものを排除していく。
現行の判断基準…実質的に関与しているかどうか(総合的な企画・調整・指導を行っていれば問題ない)。  
⇒  現行の判断基準の問題点
元請と下請の場合で基準の区別がない。
下請の施工関与には複数の形態が考えられるが、パターンに応じた区別がない。
「実質的関与」の解釈の幅が広く、管理行為などをどのような態様で行っていれば良いかの
基準が曖昧。
⇒  元請・下請の技術者の役割など、判断基準を詳しく書き分けることを検討。

これに対して、委員からは次のような意見が出た。

○大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「要は、一括下請けの基準を明確化する主旨。発注者の承諾があっても、一括で委託する側は
関与しなければならないという建設業法のルールがあるが、それをきちっと守ろうという
再確認ということで、評価できる。」

○勝見委員(一般社団法人日本建設業連合会総合企画委員会制作部会部会長)
「実質的に施工しない企業の排除について、大手のゼネコンについてはやっていただきたい。
しかし、中小のメーカーで営業に人を割けない所が地方の代理店に営業をお願いしている
場合などがあり、中小に対する配慮をした方が良いのではないか。」


工場製品の品質確保
元々建設現場で行う工程を切り離して、工場で行う場合がある。
⇒  工場で生産が行われる場合は建設業法の枠の外になってしまい、不正行為があったとしても
行政のペナルティが課されない。
  製造会社に建設業法上で制度を設ける必要があるのではないか。
  製造会社に届け出・登録をしてもらう・製造品の品質確保のための手続きを行う・
  悪意を持って不正を行った場合の指導監督権限を持てないか等、検討する。

これに対して、委員からは次のような意見が出た。

○大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「検査の規定は難しいかもしれないが、何らかのこういったものが無ければ、製造会社は
フリーハンドになって誰からも監督されない状況になるため、是非やっていただきたい。」

○古坂委員(東京大学大学院工学研究科教授)
「多様に製品が出てきている。この制度をつくる前に現在の実態を押さえてどう
仕分けをするのか。例えば鉄骨部材について海外から来ている場合、かたくなに日本のルールを
厳しくするのか。鉄筋・くい・ゴムなどが多様になっている中、どこまでが製品でどこまでが
部材なのか、見分けたうえで仕分けをしなければ乱暴になる。」  

 

(3)消費者視点に立った建設業紛争審議制度のあり方について

課題1: 住宅の売買契約については住宅紛争審査会の対象であり、
建設工事紛争審査会は所管外となっている。ただし、住宅瑕疵担保期間が
終了している場合、施工業者が施工による不具合であることを認めない場合、
解決が困難。
⇒ 対応: 買主が直接施工業者に対して訴求できるシステムの整備。
(消費者救済の見地から、買主が直接施工業者に対して訴求できる。
設計者を含む発注者や、下請企業等の関係者間の調整を行うことを
可能とする)
課題2: 売主等が調査を行わない場合や立証等の必要がある場合、買主自ら調査を行うが、
費用負担や専門家が不知のために断念するケースがある。
⇒ 対応: 迅速な紛争解決等のため、調査をサポート等するシステムを整備。
(専門家や調査会社を登録、リスト化・登録・リスト化した専門家等を
建設工事紛争審議会の手続きで活用することを選択肢とする)

これに対して、委員からは次のような意見が出た。

○大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「対応は難しいのでなないか。専門家や調査会社で実質調査を行い判断まですると、
それが裁判でひっくりかえってしまった場合どうなるのか。
判断はできるだけ伴わず、やるとしても調査までで、それを判断するのが建設業の
紛争審査会かと思う。事実の積み重ねのサポートと、審査会は峻別した方が良いのではないか。
サポートに判断は伴わないほうが副作用は少ないのではないか。」

○岩田委員(一般社団法人全国建設業協会副会長)
「住宅の品確法について、購入者の利益の保護など消費者視点に立った紛争調整である。
住宅の性能表示制度について、今は任意であるため新築の集合住宅に関しては、
上手く対象が広がるように考えてはいかがか。」   

 

(4)経営業務管理責任者要件について

経営業務管理責任者要件の見直しの方向性
建設業は一品ごとの受注生産であり、瑕疵担保責任など作った後も存続していかなければ
責任を負えないため、経営の安定性を見なければならない。経営業務管理責任者に建設業の
プロを置くことが現行の規定となっている。例えば大規模な兼業企業では当該会社の経営が
安定しているかということと、副業の建設業経営のプロがいるかどうかということは
別問題となってくる。経営の安定性を見る際に、全ての企業に一律にこの要件を課すのは
不適当ではないか、それぞれの業態ごとにどういった指標が良いのかということについて
検討が必要。  

これに対して、委員からは次のような意見が出た。

○丹羽委員(公認会計士・税理士)
「経営業務管理責任者要件の経営経験について、年数だけで資格を与えるということは
どうかと思う。地方・中小など、経験年数ではなく『こういう知見を持っている』という
素晴らしい人もいる。一定の教育や研修をする必要はないのか、適切に検討してほしい。」

○大森委員長(弁護士・東洋大学法学部教授)
「経営業務管理責任者の配置は他の要件次第であり、それが適切であればよいし、そうでなければ
だめである。適宜検討していただければと思う。」


次回の小委員会は5月23日に設けられており、中間取りまとめ骨子も提示される予定である。      

     

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